私のこと、好き?(XANXUS夢)

※「もしリボーンで恋愛ADVを作るなら」の設定をもとにした学生パラレル。
生徒会長ザンザスは朝から苛立っていた。誕生日を理由にあわよくばお近づきになろうとする輩が後を絶たないのだ。けれども彼が本当に欲しいものは誰も与えてくれない。ボンゴレリングも、父親の愛情も……
そこへ見知った女生徒が変なものを持ってきた。

+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
   
「いらねぇって言ってんだろ!」
 激しい怒声が部屋全体を揺るがした。
 へらへらと笑みをうかべていた男性生徒が情けない悲鳴をあげて廊下に飛びだしていく。炸裂した炎の残り火を見つめ、生徒会長ザンザスは息をきらして椅子に座りなおした。「カスが……」
 夕方近く、人もまばらな学園の、生徒会室に彼はいた。
 目の前には男子生徒が置いていった小さな包みがある。誕生日を祝うための贈りもの。名前も知らない同性の生徒からそれを渡されたこと自体に嫌気が差すが、それ以上にザンザスをいらだたせたのは、それが祝いの気持ちなどこれっぽっちもこめられていない代物だという疑いようのない事実だった。
 むろん、男子生徒が祝いの言葉を口にしなかったわけではない。
 相応の言葉を並べたてて、ザンザスを祝福するような仕草もした。もし相手がザンザスでなく並の生徒であれば喜んで涙を流すくらいのものだったかもしれない。登校時から今の今まで、同じような生徒が何十人も現れては賛辞の言葉とともに贈り物を手渡そうとしてきた。
 けれど、彼らがどんなに言葉や態度で装っても、ザンザスの『超直感』がそれはただのまやかしだとザンザスにささやく。学園長の息子であるザンザスに近づきたいがための貢物に過ぎないのだと。
 超直感。『炎』とともに、ブラッド・オブ・ボンゴレに脈々と受け継がれし力――。
 真実を見抜くその力に抗えるものなどいない。超直感は小さな頃からザンザスの思考を支配し、あらゆるものを嘘と真とに分けてきた。
 汚いものに触れるような手つきで包みを開ける。中から転がりでてきたのは、銀色の小さな指輪だった。
「……ふん」
 力をこめて握りつぶす。指輪は音もなくぺしゃんこになった。
 おおかた、ザンザスが『指輪』を探しているらしいとのうわさを耳にして選んだのだろう。もっとも、ザンザスが探しているのはただの指輪でなく、特別な力を持った指輪だったのだが。
(そう。オレが探しているのはただのがらくたの指輪などではない。ボンゴレリング……この学園に隠された、『守護者』のみが持ちえるという伝説の――)
 ザンザスは目を細めて宙をきつく見据えた。
 ボンゴレリング。言い伝えによると、学園創設時、初代学園長であったジョットはボンゴレリングと呼ばれる七つの指輪をこの学園のいずこかに封印したという。以来、学園はリングの不思議な力に守られ、滅びることなく栄えつづけている。そしてその継承者たる学園長は、世界を支配できるほどの強力な力を得られるというのだ。
 おそらく、父である学園長ティモッテオも例外ではないのだろう。
 ――力が欲しい。
 ――世界を支配するほどの力が。ボンゴレリングが!
 小さな頃からザンザスはそのことばかりを願っていた。そして父はリングの継承権を実子たる自分に当然与えるのものだと思っていた。超直感がそう告げていたから。
 少年時代を過ごしたイタリアで、父のいる日本へ行くことを願いながら必死に勉強を続けたことは今でも昨日のことのように思いだせる。そのことが無駄だったとわかったのは、ザンザスが日本に来てこの学園へ入学してからだ。
 父は変わってしまった――。昔のようにただ惜しみない愛情を与えてくれるだけの父親ではなくなってしまった。あげくボンゴレリングを日本人の子どもにやりたいという。「実子」であるこのザンザスではなく、ただの日本人のガキに!
 父はおかしくなってしまった――愛情に満ちていた、あの優しい父はどこに行ってしまったのか?
 ……いや、あんなものは愛情ではない。ザンザスは頭をふった。あの老いぼれは本当に欲しいものは何ひとつだって与えてくれなかった。子どもの機嫌をとるように、いかにも子どもの喜びそうなものを定期的に送りつけてきただけだ!
 優しげな父の顔を思いうかべてザンザスは唇を噛んだ。あの老いぼれとて超直感の持ち主であることにかわりはない。オレがボンゴレリングをどれだけ欲しているかは、彼がいちばんよく知っているはずなのに。
 今のところ手にできたのは雷のボンゴレリングと雨のボンゴレリングのみ。雷のボンゴレリングは忠実なレヴィ・ア・タンが探してきたもので、彼曰く、学校に迷いこんだもじゃもじゃ頭の幼稚園児がなぜか手にしていたのを長時間かけて言いくるめ、ぶどう味の飴玉一年分とひきかえに譲りうけてきたらしい。
 雨のボンゴレリングはスペルビ・スクアーロが現国教師のテュールから勝ち取ったものだ。彼がボンゴレリングを隠し持っているといううわさを耳にしたスクアーロが、宿題を真面目に提出することを条件に剣道の真剣勝負をけしかけてなんとか勝ち得たのだ。今はスクアーロが雨のボンゴレリングを身につけている。
(七つのうち二つは手にいれることができた。だが、残り五つはどこにあるのか……)
 高校三年生である自分にとって、卒業はごく間近なものだ。もし卒業までに残り五つを手にいれることができなかったら……そのときには父に反旗をひるがえしてでもリングを探しださなければ……。
「――失礼します」
 ひかえめなノックとともに扉が開いた。ザンザスははっとそちらへ向き直った。
「……てめぇか」
 ため息をつく。扉からそろそろと顔をのぞかせた女生徒は申し訳なさそうな笑みをうかべながらザンザスを見つめていた。
「すみません、遅くにおじゃましてしまって……帰るところですか?」
「違う。なんの用だ」
「ええと……ザンザス先輩に渡したいものがあって。入ってもいいですか?」
 しばらく考えたあとで、ザンザスはうなずいた。女生徒は「ありがとうございます」と扉を閉め、にこにこしながら近づいてきた。
 ――山田花子。
 一応はこの生徒会のサポート役である。中途半端な時期に転入してきたので、生徒会役員選出の選挙には出られなかったのだ。単純で嘘のつけない、人に騙されやすい性格ではあるが、そのどこかに推し量りがたい芯の強さを感じる。もっとも、ザンザスは花子を息子の様子を知るための父の差しがねだと考えているのであまり信用はしていなかったのだが。
「なんの用だ?」
 再度同じことを尋ねて、ザンザスは背もたれにもたれかかった。
 花子は緊張した面持ちでかばんを机に置き、その中から小さな箱を取り出して、
「誕生日おめでとうございます、ザンザス先輩。十月十日、お誕生日でしたよね?」
 ……おまえもか。
 ザンザスは少し嫌な気分になった。ひったくるように箱を奪い、包みを解く。
 中から出てきたのは、やはりというべきか、指輪だった。
「ほら、ザンザス先輩、ボンゴレリングを探しているっておっしゃっていたじゃないですか。特別な力を持った指輪がほしいんだって……。だから誕生日プレゼントにも指輪を……で、でも、ただの指輪じゃなくてですね!」
 ザンザスに睨まれていることに気がついて弁解するような口調になった。
「これ、知りあいのヴェルデという科学者が作ってくれたものなんです。彼は幼稚園児なのにすごい知識の持ち主で、この指輪にもちゃんと特別なパワーをこめてくれたそうなんです。その効果がどんなものなのかはお楽しみだって言って教えてもらえなかったんですけど……きっとザンザス先輩なら喜ぶものだって彼が言ってました。ボンゴレリングのような力はないかもしれないけれど……」
 だから、もしよかったら受けとってください。
 そう言って、花子はそそくさとかばんに手を伸ばした。ザンザスは指輪と花子を交互に見返した。
 この少女が自分を好いていることは超直感を使わずともそれとなく分かる。うつむきがちな少女の顔が紅潮しているのを見て、ザンザスは不思議な気分になった。こんなにも傲慢な態度で接しているのに、どうしてオレを嫌いにならないのだろうか。
 どんな女も、ザンザスが怒ったり、暴力をふるったりすれば離れていく。この少女にはそれがない。
 九代目の差しがねだからか? それとも……オレを『好き』だからなのか?
 まだあどけなさの残る少女に奇妙に興味をかきたてられている自分に気がついて、ザンザスは腕を組んだ。イタリアで過ごした少年時代、いわゆる『いい女』は幾人も見てきた。挑戦的な性格の、あの胸と尻の突き出た女たちと比べればこの少女はなんと貧相な身体つきだろう。胸も尻もぺったんこで、ザンザスの好みとは真逆をいくような少女だ。それなのに不思議と心惹かれるのは、いったいなぜなのか。
 ザンザスはふとこの少女に超直感を使うことを思いついた。単純でまっすぐで、今までは超直感など使わなくても手にとるようにわかる存在だと思っていた。父であるティモッテオや、ザンザスの怒りに憧れているというスクアーロたちと同じように。
 だが、今、この少女のことがどうしてもわからない。こいつはどうしてオレを好いているのか。なぜ?
「待て」
 ザンザスは言った。
 花子が足を止めてふり返った。
「……少しのあいだ、そこに立ってろ」
 目をぱちくりさせてうなずく花子を、ザンザスはじっと凝視した。
 超直感、もうひとつの意志とでもいうべきものが、見えない糸をはりめぐらせるように花子をとりまいていく。
 この力を使うことにためらいはない。そのはずだった。それなのに心のどこかで恐れのようなものを感じている自分に気がついて、ザンザスは震えた。この少女の本心を知ることを自分は恐れているのだろうか?
 自分を好いていると確信していた存在の、本当の気持ちを知ることは怖い。裏切られるくらいならいっそ知らない方がよい。スクアーロたちや父に超直感を使わなかったのもそのためだ。知らないかぎりは彼らを信じていられる。――ザンザス自身はそのことを決して認めようとはしなかったが、それが、真実なのだった。
「ザンザス先輩……?」
 静かに見つめる赤い瞳を見返しているうちに、普段どおりに戻りつつあった花子の頬がまた紅潮してきた。
「あの――わたし、いつまでこうしていたら――」
「うるさい。黙って立ってろ」
 いらいらと呟きながらザンザスは花子に意識を集中させた。妙に気が散る。気持ちを静めていなければ、超直感はうまく発動しない。
 ……やがて鏡のように静まりかえった心に、そっと超直感がささやきかけてきた。思念の糸でつながったかのように、花子の心情がダイレクトに胸の内に伝わってくる。
(――これは)
 日だまりにいるような心地を、ザンザスは覚えた。
 透明の日差しを感じる。誰かの温かな腕に抱かれているような、優しいぬくもりが身体全体を包みこんだ。まっすぐで偽りのない心。超直感を媒介に伝わってくる、隠すことのない本心。
 心のどこかで求めながらも、決して手にいれられないと思っていたもの。
 
(……この女)
 超直感を解いて、花子を見つめる。
 大きな眼が不思議そうにまたたいている。
「ふん」
 ザンザスは指輪を手にとり、指にはめた。
「受け取ってやる」
「本当ですか?」
 とまどいがちだった花子の顔がぱっと明るくなった。
「ありがとうございます。ありがとうございます!」
 自分のことのように喜ぶ花子を横目に見ながら、ザンザスはそっと手をかざした。
 夕日に透かすと、台座にはめこまれた青い石の中で星くずのような光がきらきらと輝く。本当に特別な力が秘められているのだろうか。
 指輪を眺めるザンザスを満足しているものと思ったのか、花子はにこにこしながら扉に手をかけた。
「それじゃあわたし、行きますね!」
「待て」
 ザンザスは立ちあがった。
「褒美をくれてやる」
「え?」
「だから、褒美だ。何度言わせる気だ」
「ほ……褒美? 褒美だなんてそんな! 別に……ただ、ザンザス先輩に喜んでほしかっただけで……本当にそれだけで……」
「いいからこっちへ来い」
 怒気を含んだその声に、花子はようやくそろそろと近づいてきた。
 腕を組んで立っているザンザスをうつむきがちに見あげる仕草はまるで怒られる前の子どものようだ。ザンザスが手を伸ばすと今にも消えてなくなってしまいそうに肩をちぢこまらせ、ぶるぶると震える。少し楽しい気分になって、ザンザスはこっそりと笑みを深めた。
「顔をあげろ」
 頬にかかった髪をかきあげてやる。指がふれた瞬間、花子はびくりと大きく身体を震わせた。
「ザンザス先輩……?」
「座れ」
 腕をひっぱってなかば無理やり椅子に押しつけると、目を丸くしている花子の頬に、ザンザスはそっと唇をあてた。
 花子がとまどいがちにザンザスを見つめる。本当に子どものようなやつだ、とザンザスは思った。
「なんで……」
「言っただろう。褒美をくれてやると。いらないのか?」
 おずおずと首をふる花子。ザンザスはにやりとした。「だったら、そこでじっとしてろ」
 言われたとおり、花子はすぐにおとなしくなった。緊張した面持ちで膝の上に手を置いて、敵でも待ち構えているかのような仕草だ。ザンザスはいつになく胸がくすぐったくなるのを覚えた。変なやつ。だが、嫌いではない。
 もういちど頬にキスをしてから、今度は唇に押しあてる。おののきがかすかな震えとなって伝わってきた。
「……止めるなら今の内だぞ。いいのか」
 唇を離して、ザンザスは言った。
「……?」
 花子はどこかぼんやりとした表情でザンザスを見つめている。
 こいつ、聞いているのか?
 ザンザスは花子の頬をぺちぺちと叩いて、ちょっと怒ったように問いかけた。
「おい。止めてほしいのか、止めなくていいのか、どっちだ」
「……止める……?」
 惚けたような声が返ってきた。「なにを……?」
「なにを、だと? そりゃ、これからすることをだ。分からんならまあいい。それとも分かっててやってんのか?」
 ザンザスは上着を脱いで机の上に放り投げた。
 正直、ここまできて自分自身を抑えるられるだけの余裕はない。そしてそのつもりもなかった。自分を好く女子生徒が目の前にいて、それでどうやってがまんをしろと言うのだ。気づかっているだけまだましだ。ザンザスは花子を抱き寄せると、舌で強引に唇を押し開いてじっとりとした感触にむしゃぶりついた。そのまま椅子に押さえこんで、熱の高まった身体を強く押しつける。腕の中で彼女がかすかに身じろぎしたのが感じられた。
「おい。てめぇも舌出せ」
 花子の制服のリボンに手をかけながら、ザンザスは言った。
 うなずいて、花子がちらりと舌をのぞかせる。ザンザスは満足げに微笑むと、絡めとるようなキスをした。どこかうっとりとした表情で花子が呟く。
「好き……」
 ザンザスはぞくりと背筋が震えるのを感じた。
 少女というより、女の顔だ。
 さっきまでキスをするのも初めてだというような顔をしていたくせに。
 なんだ? 何かおかしい……。
 背中に腕をまわしてしがみついてくる彼女を受けとめてやりながら、ザンザスはこみあげてきた形のない疑念に心を奪われていた。
 何か気にかかる。性急にことを進めているわりには、あまりにうまくいきすぎではないか。花子は――少なくとも、ザンザスの記憶にある彼女は――こんなにも簡単に男に身体を明け渡してしまうような少女ではなかったはずだ。たとえそれが好いている男であったとしても。
 ザンザスの超直感が彼に何かをささやく。ザンザスは異様なものを見る目で目の前の少女を見つめた。
「まさか……」
 そこでがらりと扉が開いた。
「う゛お゛ぉい! ザンザス! さっきよぉ、知らない女子生徒どもがおまえに渡してくれってんでなんか色々押しつけてきてよ! どうしようもないからとりあえず受け取ってやったが――……あ゛?」
 間の抜けた声をあげて、スクアーロが立ちつくした。
「……お゛、う゛お゛ぉ、わ、悪いなぁ。邪魔したな。取り込み中だったか。オレは帰るから、あとはよろしくやってくれや。け、けどよ、その前に、そこの荷物、とりにいってもいいかぁ? 宿題、やらないとテュールの野郎にキレられるからよぉ……」
 女生徒たちから渡されたらしいプレゼントの包みを冷や汗をかきながら机に置く。
 ザンザスはスクアーロをふり返り、そして花子を見た。
 花子はぴたりと動きを止めていたが、やがてわなわなと震えだし、わけのわからない声をあげてザンザスを突き飛ばした。よろめいたザンザスには目もくれず、はだけた襟を真っ赤な顔であわててかきよせながら、かばんをひったくってスクアーロの横をばたばたと通りすぎていく。
 後には目を見開いているザンザスと、落ちこんだ顔のスクアーロが残された。
「……わ、悪いことしちまったなぁ。こういうの、他人に見られたくないよなぁ。謝んないとな……。ザンザス、おまえからもあいつに謝っておいてくれよ……って、なんで笑ってんだ? う゛お゛ぉい?」
 腹を抱えて笑う親友の顔を、スクアーロは目をぱちくりさせて見つめた。
「……っていうか、ザンザス……てめぇがそんなふうに笑ったの、久しぶりに見たぜぇ。怒ってるのもいいけどよ、笑ってるあんたもけっこうかっこいいぜぇ……。……けど、なんでこんなこと思っちまうんだろうなぁ? なんかおかしくねぇか、オレ?」
「カスが。てめぇまでひっかかってんじゃねぇ」
 ザンザスは花子から渡された指輪を外し、コトリと机に置いた。
 その瞬間、どこか惚けたようにぼんやりとしていたスクアーロの目がぱっと見開かれた。ザンザスはこらえきれずにくっくっと笑った。
「あの女、幼稚園児なんぞに騙されやがって。馬鹿なやつだ」
「う゛お゛ぉい? なんだぁ、それは?」
 興味津々でスクアーロが覗いてくる。指輪に手を伸ばそうとするのを、ザンザスは手の甲ではねのけた。
「あの女がプレゼントだと言ってオレに渡してきた。てめぇには必要のねぇもんだ」
 科学者ヴェルデが作ったという指輪――。
 おおかた、秘められた<特別な力>というのは今のようなものなのだろう。いわゆる『媚薬』と同じだ。ただ、その効果が指輪を身につけたものの周囲に見境なくふりまかれるらしいところが違うだけで。
 ヴェルデの名は聞いたことがある。園児のくせに大人顔負けの知識を有していて、変わった発明をしては周囲を困らせているらしい。あの花子のこと、幼稚園児科学者の口車に乗せられて遊ばれたに違いない。
 スクアーロが来て花子の目が覚めたのは、おそらくより力の強い雨のボンゴレリングの接近によってこの指輪の効力が抑えつけられたからなのだろう。そのスクアーロが一瞬でも指輪に影響されてしまったのはいささか気にかかる点ではあるが。
(まあいい。おかげで面白ぇもんが見れた。あのガキにしちゃあ上出来の誕生日プレゼントだ)
 うっとりと自分を見つめていた少女の無防備な顔を思いかえし、ザンザスは指輪を手の中に握りこんだ。
 今度会うときの花子の顔は見ものだろう。指輪を返せ、と言ってくるかもしれない。だが返すつもりはないし、この指輪に頼るつもりもない。これはあくまできっかけのひとつ。
 そうだ。本当に欲しいものは自分の力で手にいれなければ意味がない。与えられるものでなく、自らの力で勝ち取ることにこそ価値を見出すべきなのだ。
 ――いつか、本当の意味で彼女を自分のものにしてみせる。
 今日の続きも、それから先のことも、彼女を手にいれてから満足のいくまでやればいい。
 外を見ると、全速力で走る小さな影が見えた。花子だ。逃げるようにグラウンドを突っ切る彼女を見つめていると、その顔がちらりとこちらを見た。離れていてもわかるほど真っ赤に染まった顔が、ザンザスを目にして慌ててそっぽを向いた。
「……なんかよく分かんねぇけど、よかったなぁ、ザンザス? 笑って誕生日を過ごせてよ。けどいいかげん生徒会室で女とやるのはやめてくれぇ。ほかのやつが入りにくいだろ。オレは別に構わねぇけど、レヴィとかは卒倒するだろ。間違いなく。それに花子……あいつ、ああいうことには疎そうなのに手ェ出してよかったのか? ちょっと早すぎねえかぁ? しかもザンザスの好みとは真逆をいくようなガキじゃねえか。女の好み変わったのかよ?」
 竹刀の入った袋とかばんをかついで早口にまくしたてながら、手の中で指輪を転がして機嫌よく外を眺めるザンザスをスクアーロは目を丸くして見つめた。
 
     おわり
 
 TITLE:vertigeより「私のこと、好き?」
 DATE :2010.10.09

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PHP Code Snippets Powered By : XYZScripts.com