STORY あらすじ

 ザンザスは、九代目の実子ではない。
 実子として扱われているが、それはうそだ。彼はバラックの建ちならぶ貧民街に母親と共にいたところを、マフィア・ボンゴレの九代目に保護されてボンゴレへとやってきた。九代目の慈悲がなければあのままあそこで生活していたか、飢えにやられて死んでいたに違いない少年だった。
 母親は、自分の夫は九代目であり、『炎』を宿す息子ザンザスはボンゴレの血をひいていると信じこんでいた。極秘で結成された委員会によって調べられる限りのことが調べられたが、彼女が九代目と関係をもったという事実は確認されなかった。
 母親の言動を真にうけたザンザスも、自分はボンゴレの血をひいた人間<ブラッドオブボンゴレ>なのだと信じて疑わなかった。彼の出生についてもかなりの時間をかけて調査がなされたが、彼が九代目の息子であるという証拠はどこにもなく、彼がその身に『炎』を宿している理由もついに解明されなかった。

 それから数年。
 ボンゴレは後継者候補選出の時期を迎えていた。足腰を痛めて前線を退いた九代目に代わる、新しい当主、十代目が決定するのだ。
 しかし、その内実は惨々たるありさまだった。憶測が憶測を呼び、噂や陰口が摩擦を生む。老重鎮は己の影響力を強めるために争いを利用し、若き後継者候補たちは期待と重圧の中、互いの潰しあいにかかる。ほかのファミリーにつけいられる隙もできる。そしてその裏で暗躍するのが、ボンゴレ最強とうたわれる独立暗殺部隊「ヴァリアー」――剣士としてもっとも誉れ高き「剣帝」の名を持つ男、テュールを頭とする暗殺者集団だった。

 ヴァリアーのテュールのもとで育てられていたザンザスはある時、真実を知る。
 自分は九代目の実子ではない――……今まで築きあげてきたすべてが音を立てて崩れていくようだった。ブラッドオブボンゴレなくしては後継者として認められない。認められた功績、築きあげた信頼、血のにじむような努力、王者としての孤高、そのすべてを支えていたたったひとつの思いが崩れたとき、ザンザスの中で憎悪がふくれあがった。
「あの、老いぼれ……! 奴はオレを後継者にするつもりなどなかったんだ! なにが息子だ! オレを裏切りやがったんだ!」

 少年剣士スペルビ・スクアーロがザンザスと出会ったのはその頃だった。
 ザンザスの底無しの怒りに惚れこんだ彼は、ザンザスについていくことを決意する。そしてザンザスの野望を実現させるために、ボンゴレ最強とうたわれる独立暗殺部隊ヴァリアーのボスであり、後継者候補選出の投票者のひとりであるテュールを殺害するための戦いをしかける。すべては自分が強くあるため、ザンザスの怒りのため。
 テュールとの決戦が迫っている。そして後継者候補選出の時が。スクアーロは剣をふるう。ときおりザンザスがのぞかせる悲しげな表情に、同情にも似た共感を抱きながら――。

 独立暗殺部隊ヴァリアーに所属する女剣士は、一抹の不安を覚えていた。
 師であり、上司であり、養い親でもあるテュールが、素性も知れぬ少年剣士スペルビ・スクアーロとの戦いを一週間後にひかえているのだ。剣帝の勝利を疑るわけではない。それでも……。
 ヴァリアー副隊長のオッタビオになだめられても、不安が消えることはない。

 決戦の数日前、後継者候補のひとりエンリコがヴァリアーの屋敷を訪ねてくる。昔した約束を確かめるためだというが、その表情はどこか冷たい。エンリコは平静をよそおっていたが、は彼がザンザスに対して激昴する場面に遭遇してしまう。

 エンリコは複数いる後継者候補の中でもっとも優れた実力と資質を持つ、いわば次期当主に一番近い男だった。しかしザンザスの出現によって彼の立場は危ういものになった。よりボンゴレの血筋に近いことが良しとされる組織においては、甥であるエンリコよりも、九代目実子とされるザンザスの方が十代目にふさわしいと考えられる可能性があったのだ。
 上層部も、ボンゴレへ来たばかりのころのザンザスを「金品目当てに嘘をならべたてる浅ましい売女の息子」、「卑しい手管を身につけた泥棒」とののしっていた。しかし彼が二代目が激昴したときにのみ行使したというめずらしい<憤怒の炎>を有していることを知るやいなや、二代目の再来だといって彼をもてはやし、我先に彼の支持に回るようになった。そしてザンザス自身もまた後継者にふさわしい力を身につけていった――次期当主にもっとも近いとされたエンリコをも凌ぐ勢いで。

 エンリコがザンザスに対して敵意をむきだしにするようになったのはそれからだったのだ。酒をあおるようになり、友人であるはずのテュールにも冷たい言葉をかけるようになった。そのような姿を見て、部下はますます彼のもとから離れてザンザスのほうへ傾いていく。彼のどんな努力も、今までに築いてきた信頼も、名誉も、九代目「実子」の前では大岩にくだける波にひとしかった。

 それでも、血の純粋性という点ではザンザスに劣っているとを理解しつつも、エンリコは決して次期当主の座を諦めようとはしなかった。
 あるいは、諦めることができなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。ザンザスを正統後継者として認めることは、すなわち自分自身の劣性を認めることと同じ。今までの血のにじむような努力を否定することと同じなのだ。
 誇り高いエンリコに、そのようなことができるはずがない。
 だからこそ彼は、スラムで生まれ過ごしていた子どもを、――たとえそれが九代目の息子であってもなくても――組織の後継者として認めるわけにはいかなかったのだ。

 少年剣士スペルビ・スクアーロとの決戦を明日にひかえた夜、は師テュールのもとを訪ねる。
 身寄りもなかった自分を引きとり、一人前の剣士に育てあげてくれたテュールには養父に抱く以上の感情を覚えている。隠してきた彼に対する愛情の一端を、勝利への願いにこめて彼に贈った。すべてを見透かしたようにそれに応えるテュール。

 スクアーロとの二日間の死闘の後、テュールはのもとへ帰ってきた。
 息をひきとった、二度と目覚めることのない姿で。

 すべてがザンザスの策謀であったことを知ったは、ザンザスに復讐の刃を向ける。
 その前に立ちはだかるスクアーロ。
 そして――自らの血の「劣勢」を覆すためにザンザスへの敵意をむきだしにするエンリコ。後継者の座を確実なものとするためにほかの後継者候補を次々と殺害していくザンザス。血の純粋性を守りぬくことに固執し、真実を知ることのないまま、ザンザスを王にするために彼の野望に反対するオッタビオ。身寄りのない親子を引きとったことで、血を受けつぐことで百数年続いてきた組織の在り方を考え直さなければならない状況にいよいよ直面した九代目。

 運命を変えることはできないのか? 戦いの果てに見えてくる真実とは?
 ふたりの少年と、ひとりの少女。傷つき倒れながらも彼らは歩いていく。
 運命の、その先へ向かって――。

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