少年時代のスクアーロとXANXUSの短編(掌編)です。
揺りかごよりも前、彼らが知り合ったくらいの頃にスクアーロがXANXUSにジェラートを買う話。
揺りかご前はXANXUSが「置いていく」側でスクアーロは「置いていかれる」側、揺りかご後〜八年間はそれが逆転してスクアーロが「置いていく」側になってしまったと考えると少し切ないですね(この話ではそこまで書いていないですけども、そういうのも書いてみたいと思いました!)
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同じ歩幅で
「——どうしたぁ、御曹司?」
ザンザスが立ち止まったのに気がついて、スペルビ・スクアーロは顔をあげた。
ザンザスの視線の先で、まだよちよち歩きの小さな子が地面にうずくまっている。両親に諭されても、いやいやと首を横にふるばかりでいっこうにその場から動こうとしない。
困ったように顔を見合わせた父母が、しゃがみこんで子の耳元に囁くような仕草をする。途端、子どもの顔がぱっと明るくなった。親子は手をとりあい、愉しそうにジェラテリーアの中へと入っていく……
そこでザンザスはふいと顔を背けると、スクアーロの呼びとめる声など気にもとめずにすたすたと歩きだしていってしまった。
「ゔお゛ぉい! 置いていくなぁ!」
ザンザスを追いかけようとして、スクアーロは親子のいた方角をちらっと見た。
何がそんなに気にかかったんだぁ、あいつ。こんなふうに歩いて街をうろうろするのは初めてらしいが、道行く親子連れなんてたいして珍しいものでもないだろうに。
ザンザスと出会ってまだ日も浅いが、それにしても、ザンザスが何を考えているのかスクアーロにはちっとも分からなかった。
ザンザスの口数の少なさのせいもある。自分から話すことはほとんどないし、スクアーロが話しかけても必要最低限のことしか口にしない。普段は黙りこくって、あの燃えるような赤い眼でじっと宙を睨みつけている。
それでも、もっとよく知りたいと思い、いつも何をしているかとか、何が好きで何が嫌いだとかそういうことを聞いてザンザスの心の内へ少しでも踏みこもうとしたのだが、すべて無駄に終わった。まるでそれ以上は寄せ付けさせないとばかりに、凄まじい怒りの形相でこちらを見て、無言の拒絶をつらぬいてくるのだ。
(ちょっとくらい会話してくれたっていいのによ。そりゃあいつの怒りに憧れはしたし、どんな扱いをされようとついていくって決めたけども、まるでこれっぽっちも信用されてないみたいじゃねえかぁ……)
顔をあげて、親子のいた方角をもう一度見る。店先で、あの親子連れが何やら楽しそうに談笑している。夫婦の足元で、さっきの子が、真っ赤なジェラートを手にはちきれんばかりの笑みを浮かべていた。
そこでスクアーロはふと思いたってポケットに手を突っ込むと、小銭があるのを確かめてから急いでジェラテリーアに駆けこみ……しばらくしてものすごい勢いで店内から飛びだしてきた。
「待てよ! 御曹司!」
スクアーロは大声で呼びかけながら、素早くザンザスの前に回りこんだ。無言でぎろりと睨みつけるザンザスに、手に握りしめていたものをさっと差し出す。
「ほらよぉ」
「……なんだ、これは」
「見れば分かるだろぉ? おまえがさっき見てたあの店のジェラート、真冬でも食べたくなるくらい美味いんだぞぉ。しかも、学生にはちょっとおまけしてくれるんだぁ!」
スクアーロはそう言って大きなジェラートをザンザスの眼前に突き出した。
ひとつはピスタチオ味、もうひとつの白いのはミルク味だろうか。たっぷり乗せられたアイスがコーンからはみ出して今にもこぼれ落ちそうになっている。スクアーロは二つのコーン手に持って、そのうちの一つをザンザスに受けとらせようと試みているのだった。
「……固っちまってどうしたんだよ? まさかとは思うが、ジェラートを見るのが生まれて初めてだってことはないよな?」
赤い瞳でじいっとジェラートを見たままぴたりとも動かないザンザスを、スクアーロは驚き半分呆れ半分といった表情で見た。
「まさか本当にそうなのかよ? 金持ちってのは普段どんなもの食べてるんだぁ? こんな美味いもんを食べたことないなんて」
「食ったことはある」
ザンザスは低く言った。
「だが、そういう——どこにでもあるような店で買ったものを食ったことはない。必要なものは、必要なときに用意される」
「はっ! これだから金持ちってのは——おっと。そう睨みつけるな。いいから食えよ! そこらへんにある店のだからって馬鹿にするなよ、絶対に美味いぞぉ!」
ザンザスはスクアーロの顔を迷惑そうに見つめていたが、やりとりを続けるのにもいい加減飽きたのか、しぶしぶといったふうに手をあげて白いほうのジェラートを受けとった。それから、スクアーロの期待のこもった視線に根負けしたように仕方なくジェラートに舌先をつけた。
「こんな美味いジェラートを今まで食べてこなかったなんて人生の半分は損してるぞぉ。ま、オレも食べるようになったのはつい最近だけどな。ガキの頃はこういうモン食べさせてもらえなかったからよぉ、初めてこの店のジェラートを食べた時にはあまりの美味さに驚いたもんだぜぇ」
スクアーロは自分で言って自分でうんうん頷きながら緑色のジェラートにかぶりついた。
「これからは好きな時に好きなだけ腹いっぱい食おうぜぇ。オレたちは自由なんだからな! なんならオレが毎日買ってきてやろうかぁ」
「……そんなに食ったら腹壊すだろうが」
「それもそうだな! じゃあ毎週にするか!」
ザンザスは返事をしなかったが、ジェラートを投げ捨てようとはしなかったので、きっとそれなりには美味しかったのだろうとスクアーロは解釈した。
「次は別の味を試そうぜぇ。オレのオススメはやはりナッツ系だな、特にヘーゼルナッツが美味いんだぁ! なあ、おまえはどんな味が好きなんだぁ。普段どんなもの食べてるんだよ。教えてくれよ——」
昨日より一歩だけでも彼の心の内に近づいた気がする。小さくても一歩は一歩だ。
「ゔお゛ぉい! 置いていくなよ」
スクアーロはにっと白い歯を見せて笑うと、ザンザスの隣に並ぶため、無言で先を行こうとする彼の後ろを追いかけた。
おわり
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