Margarita(コヨーテ・ヌガー夢)

コヨーテ夢「Under the rose」の続きです。時系列的にはそれより前の話なので夢小説的な意味での進展は特にないです。
継承式でシモンファミリーにやられたコヨーテは白蘭の能力によって治療され生かされたという設定。原作では生死不明の状態のまま最終回を迎えてしまったコヨーテですがきっと山本と同じように白蘭の能力で復活しているはず?

この話を書きだしたのが2011年、書きかけのまま温められつづけ約13年後に完成したことに……同じ登場人物での書きかけのコヨーテ夢まだまだあるのでその内ちゃんと公開したいです。


+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

        Margarita

「……コヨーテ!」
 視界に白い光が差しこんできた。
 朝、それとも昼だろうか?
 途方もなく長い夢をみていた気がする。その夢の中で、誰かにずっと名前を呼ばれつづけていたような気がする。
 かすみがかった意識が徐々に冴えてくると、ぼんやりした視界に誰かが映りこんできた。コヨーテは仰向けになったまま数度まばたきをくりかえし、やがて、おおいかぶさるようにしてこちらを覗きこんでいる少女の今にも泣きだしそうな顔を認めた。
「……花子?」
 かすれた声でつぶやく。
「ここは……どこだ。オレは……」
 起きあがろうと手をつく。身体じゅうの骨がぽきぽきと音を立てそうに軋んだ。少女がまた心配そうな顔で覗きこんでくる。
「コヨーテ、大丈夫? 起きあがれるの?」
「水を……くれ。喉がかわいた」
 コヨーテの言葉にこくりとうなずいて、少女が部屋を出る。コヨーテはのろのろとあたりを見回し、見覚えのないその部屋に奇妙な違和感を覚えた。
 ここはどこだ? なぜあいつが、花子がいる?
 あいつは十代目・沢田綱吉のただの学友で——ごろつきに襲われていたのをたまたま助けてやっただけなのに、なんでこんなところに——オレは継承式の——罪が——シモンファミリー……シモン!?
「コヨーテ、お水……」
「おい、継承式はどうなった!? シモンは!?」
 水の入ったコップを手に駆けもどってきた花子にコヨーテは激しく掴みかかった。
 花子はコップの水をこぼすまいと努力しながら目をぱちくりさせている。
「コヨーテ、それより身体の調子は……」
「うるさい! 継承式はどうなったのかとオレは聞いているんだ!」
 はっきりした答えが返ってこないことに無性に腹が立ち、花子の肩をめちゃくちゃに揺さぶる。あ、という声とともに手からコップが滑りおち、こぼれた水が毛布に大きな染みをつくった。さすがの少女もおびえて距離をとる。コヨーテはそこでようやく自分が病人用の寝巻を着てベッドに寝かされていることに気がついた。
「コヨーテ……」
 おそるおそる花子が近づいてきた。
「大丈夫? 落ちついた? 今は何も心配しなくていいから。ほら、まだ眠っていた方がいいよ」
「眠ってなどいられるか。オレは……!」
 今にもベッドから跳ね起きようとするコヨーテの肩にそっと少女の手が添えられる。コヨーテは苛立ち気味にその手を跳ね除けようとしたが、少女が安心させようとして微笑みかけてくるのに気がついて、居心地悪そうにもぞもぞした。
「大丈夫?」
「ああ……」
 コヨーテは自分をなだめるようにゆっくりと息を吐いた。
「問題ない。見苦しいところを見せちまったな」
「ううん。元気になったのが分かって逆に安心しちゃった。ガナッシュさんを呼んでおいたからきっとすぐに来てくれるよ」
「……ガナッシュだと?」
「コヨーテ! 目を覚ましたんだな!」
 威勢のいい声をあげながら、扉を開けてどかどかと部屋に乗りこんできた雷の守護者ガナッシュはコヨーテの姿を見るなりほっと息をついた。
「よかった……一時は本当に死んじまうんじゃないかって皆でヒヤヒヤしてたんだぜ、本当に」
「ガナッシュ!」
 コヨーテは今度こそガバリと跳ね起き、ベッドから転げ落ちそうな勢いでガナッシュに掴みかかった。
「継承式は終わったのか? 九代目は無事か! 十代目は! シモンファミリーのガキどもはどうなった!」
「まあまあ、落ちつけって。まずはあんたが無事に目を覚ましたことを祝わせてくれよ。あんた、シモンファミリーの小僧っ子に手ひどくやられてずっと眠りっぱなしだったんだぜ。継承式なんてとっくに終わっちまってるよ。もちろん、十代目の望んでいた形でだ! あんたがそのエピローグにいなかったのはすごく残念だったけどな」
 ガナッシュは一瞬泣きだしそうに顔をくしゃっとさせてから、すぐにぱっと明るい笑みを浮かべた。
「瀕死のあんたが運ばれてきたとき、もうだめだって本気で思ったんだぜ、オレ。でも山本武もあんたも白蘭の能力によって命を救われたんだ! 十年後の未来ではボンゴレを追いつめたロクでもない野郎だったのかもしれねえけど、オレにとっちゃあ救世主と同じさ」
「白蘭が……オレの命を救っただと?」
 コヨーテは自分の寝巻きをバッと広げ、自分の胸元や腹にひとつも傷が残っていないのを確かめた。
「しかし、あいつの能力は……いや……うむ。あいつに関してはもう何があっても不思議ではない。未来での因縁は別として、この時代にいる白蘭には感謝すべきということか」
「感謝するんだったら、このお嬢さんにもしてあげなよ」
 ガナッシュは二人の会話を黙って聞いていた花子の肩にぽんと手を置いた。
「彼女だってずっとコヨーテのそばに居てくれたんだから。学校が終わったらすぐさまホテルのこの部屋までやって来て、夜までつきっきりで見ててくれてたんだ。なあ、花子ちゃん」
「いえ、わたしがやりたくてやったことなので……」
 恥ずかしそうにうつむいた少女の顔はうっすらと赤く染まっている。コヨーテはその顔をじいっと見て、ふとあることに気がついた。
「おい。おまえ、なんでここにいる」
「え?」
 おまえ、というのが自分を指していること気づき、花子はきょとんとした表情になった。
「なんでって」
「確かにオレはおまえを助けた。継承式の前、十代目の命を狙って潜伏していたマフィア崩れの野郎に襲われかけていたところをな。だが、それだけだ。おまえはただの一般人、十代目の学友に過ぎねえ。それもたった一度会ったきり。関係者でもなんでもねえ。それが、そんなやつが、なんでここにいる」
 コヨーテの怒気を含んだ眼にじいっと見据えられて、花子はびくびくしながらガナッシュに助けを求めた。ガナッシュは、しまった、とばかりの表情で視線をさまよわせた。
「ガナッシュ? ……おまえが呼んだのか? そうなんだな? また無関係の人間を巻きこみやがって!」
「だって、本当に死んじまうかと思ったんだよ!」
 ガナッシュが大声で叫んだ。
「あんたからすればたった一度助けただけの他人なのかもしれないけど、この子からすればあんたは命の恩人なんだ! 会えずじまいのまま別れることになったら可哀想だって思ったんだよ!」
「お願い、ガナッシュさんを叱らないであげて」
 花子が懇願した。
「ガナッシュさんはただわたしの様子を見にきてくれていただけ。怖い人たちに襲われてから、怪我の具合はどうだとか、トラウマになっていないかとか、毎日確認しにきてくれていたの。わたしがそれを利用してコヨーテのことを色々聞きだそうとしていた。わたしが無理を言ったの。そうしたら……コヨーテがひどい怪我を負った、でも自分たちは船に乗って向かわないといけない場所があるからって……それで、頼みこんで、コヨーテの入院している病院に通えるようにしてもらったの」
「白蘭が来たのはその後さ」
 ガナッシュが付け加えた。
「白蘭が来るまで、この子はあんたが死ぬかもしれないって思いながらずっとあんたのそばに居てくれたんだよ。白蘭の能力で回復して、このホテルの特別室に移送されてきてからもずうっと」
「なぜそんなことを」
「……コヨーテのことが心配だったから」
「おまえが? オレを? 心配……?」
「コヨーテはわたしを助けてくれた。守ってくれた。わたしにとっては命の恩人——特別な人なの!」
 きっぱりと言い切る。
「それなのに、そのコヨーテが死にそうだって聞かされて……ビャクランって人がやってきて不思議な力で怪我を治してくれたけれど、それでももしかしたらダメかもって……わたしずっと心配で……コヨーテがいなくなったらどうしようって……!」
 みるみるうちに少女の目に涙がたまる。コヨーテはたじろぎ、びっくりして、魚のように口をぱくぱくさせた。だが、何を言えばいいのかさっぱり分からない。何かしたほうがいいのかと手を持ちあげては何もできずにまた下げる。うるさい、めそめそするな、そう怒鳴ってしまえば楽だろうに、自分の中にいる何かがそれはいけないと強く引き止めてくる。ギリギリと歯を食いしばりながら、どうすればいいかと視線でガナッシュに訴えかけてみるが、ガナッシュはコヨーテのその様子に笑いを堪えてぷるぷる震えているばかりでちっとも助け舟を出そうとしない。
「……おい、ガナッシュ」
 コヨーテはようやく言った。
「九代目にオレの目が覚めたと伝えにいけ」
「そ、それは、もちろん、もう伝えて——ああ、いや、うん。分かった。伝えにいくよ」
 ガナッシュは緩んでいた頬を自分の手でぐりぐりと触って気を引き締めると、さっそうとドアのほうにすっ飛んでいた。
「……行ったか」
 ドアが閉まるのを確認して、コヨーテはまじまじと花子を見返した。
 花子は唇をぎゅっと引き結んで、目に涙をいっぱいに溜めつつもそれでも泣くまいと堪えているようだった。
 ガナッシュの話が真実だとすれば、どうやら相当長いあいだ不安にさせていたらしい。コヨーテはぽりぽりと顎をかき、ため息をついた。
「……悪かった」
 コヨーテがそう言った途端、堪えかねた花子がわっと泣きついてきた。肩に額を押しつけてわんわん泣く少女に、どうしていいものかとコヨーテは困り果てたが、きっとこうするのがいいのだろうと思い、小さな背中にそっと手を置いた。少女の泣く声がいっそう大きくなった。
「よかった……本当によかった……」
「そんなに泣くほどのことでもないだろうが」
「だって、コヨーテがこのまま目覚めなかったらどうしようって」
「一度会っただけの人間にそこまで肩入れする必要はないだろう。さっさと忘れちまえばいいものを」
「忘れないよ」
 腕の中で、花子が顔をあげて微笑んだ。
「もし忘れろって言われても絶対に忘れない。コヨーテはわたしの命の恩人だもの」
 コヨーテは吸いこまれるようにじっと花子の顔を見つめた。老いた自分の中からはとうの昔に失われた何かが、この少女の内側で燃えていた。もはや手の届くことのない何かが——
 二人はそのままの体勢で言葉もなく見つめあっていたが、ドアがガラリと開いた瞬間、コヨーテのほうが花子を物凄い勢いで突き放した。花子がそのまま後ろにひっくり返りそうになったのは言うまでもない。
「コヨーテ! 目が覚めたのか!」
 部屋に入ってくるなり、九代目はぱあっと顔を輝かせて杖を放りだす勢いでコヨーテに近づいた。
「もう動けるのか? なんだ、すっかり元気そうじゃないか!」
「ティモッテオ……」
 継承式の前となんら変わらない穏やかなその表情に、コヨーテはようやく全てが終わったこと、シモンファミリーの絡んだ一連の事件が無事に解決したであろうことを身をもって体感できた。遅れて入室してきた他の守護者たちもコヨーテの無事を知ってほっとしたような表情を浮かべている。
「どうやら色んなやつに心配をかけちまったらしいな。まだまだ死ぬわけにはいかねえ、イタリアに帰ったら一から鍛え直さねえと」
「数日前まで生死の境をさまよっていた人間の言葉とは思えないな。とにかく、彼女にはきちんとお礼をするんだよ」
 九代目はほっほっと笑ってコヨーテと花子を交互に見た。
「おまえのことをいたく心配して毎日この部屋まで通ってくれていたんだよ。こんなにいい子は今どき滅多にいないとも。実に優しい子だ。……さあ、連日帰りが遅くて君の御両親も心配なさっていることだろう。今日は早めに帰宅してゆっくり身体を休めるといい。また後日あらためて御礼をさせておくれ。ニー、送って差し上げなさい」
「はい。さあ、こちらへどうぞ。ご自宅までお送りします」
「ありがとうございます。コヨーテ、またね」
「ああ」
 コヨーテはごく短く言った。ニーのエスコートに緊張でかちこちになりながらも、花子はその返事に満足したようにはにかんでいた。

『忘れないよ』

 ……どうだか。口ではなんとでも言える。
 さしものコヨーテもあの少女が自分に好意を抱いているとは薄々勘づいていた。
 だが、子どもの恋心などほんの一時のお遊びのようなものだ。そのうち若くて見てくれのいい若い男が現れて、こんな老いぼれのことなどあっという間に忘れ去るに決まっている。
 それに、彼女の気持ちがどうあろうと自分は彼女の記憶に残っていてよい人間ではない。マフィアと関わった記憶などすぐにでも忘れ去るほうがいい。忘れないというのなら、忘れさせるまでだ。
 だが……
 コヨーテは奇妙に疼く胸を見下ろした。シモンファミリーにやられた時の傷ではない、目に見えない何かが自分の内側でうごめいている。炎のように熱い何かが。

(……忘れようとしているのは、オレの方なのかもな)

 今はまだ胸の内でくすぶっているだけのそれを吹き消すように、コヨーテ・ヌガーはそっと息をついた。
 
 
 
        おまけ

「ところで」
 ニーが花子をともなって部屋を出ていくと、九代目がこほんと咳払いした。
「あらためて聞くが、コヨーテ。あのお嬢さんとはどういう関係なのかな?」
「あ?」
 九代目に問われて、コヨーテは素っ頓狂な声をあげた。
「別に……十代目の命を狙ったマフィアにたまたま襲われていたのを助けただけだが」
「なるほど、命の恩人というわけか。それで毎日のようにお見舞いに来てくれていたのかな」
「あの子、コヨーテはどんな人なんだ、何が好きなんだ、今どうしてるのかってオレにすげえしつこく聞いてきたんですよ」
 と、ガナッシュ。
「いよいよコヨーテが死ぬかもしれないって時に、この子は何も知らないままずっとコヨーテとの再会を夢見て生きていくんだろうな、そうしてふとした時にコヨーテがあの時死んでいた事実を知ってひどくショックを受けるんだろうな……そう思ったらなんだか可哀想になって、ついついコヨーテのことも教えちまって……あ、いや、ほんとごめんって、コヨーテ。睨まないでくれよ。マフィアってことはとっくに知られてるんだからそうカリカリするなって。しかし、命の恩人だからってそこまでするもんなんですかね。気になるのは分かるけどもさ、別に自分のせいで死にそうになってるわけでもないのに」
「ふむ。おまえが目覚めたとき、彼女はどんな反応をしたんだい?」
「どんなって……」
 コヨーテは眉間にしわを寄せ、
「わんわん泣きわめいて、このまま目覚めなかったらどうしようかと思ったんだと。それで……一度会っただけの人間になんでそこまで肩入れするのか、さっさと忘れちまえばいいと言ったら……絶対に忘れない、と」
 これを聞いた他の守護者たちはいっせいに顔を見合わせ、すばやく輪になって何事かこそこそと囁きあいはじめた。
「これはあくまで私の予想だが……もしかしてあの花子という子、コヨーテのことが好きなんじゃないか?」
「ティモッテオ……それはさすがに無いんじゃないか?」
「ビスコンティの言うとおりですよ。彼女は綱吉様の同級生です。外国人で、しかも自分のおじいちゃんくらいの年齢の男を好きになる中学生がいると思いますか?」
「ありえないわけではないでしょうが、可能性は限りなく低いでしょうね。小説か映画ならともかくとして」
「ふうむ、ガナッシュもクロッカンもそう思うか。私には、コヨーテを見るあの子の目がまるで特別なものを見るような目に見えたのじゃが……」
「まあ、それはオレにもそう見えましたけども。コヨーテのほうも彼女はちょっと特別って感じだし……」
「なんだって? それは本当か?」
「急に食いついてくるじゃねーかよ、ビスコンティ。だってさ、子どもだろうが女性だろうが容赦なく怒るコヨーテがあの子相手だとおろおろして、どうすればいいんだって目でオレに訴えかけてくるんだぜ。『傷つけたくない』みたいな顔してさ」
「おい、おまえら? 何をコソコソ話し合っている?」
 何やら自分のことを悪く言われているような気がする。コヨーテは苛々しながら毛布を蹴飛ばして立ちあがろうとした。「おい!」
 ここで、それまで黙って他の守護者たちの話を聞いているだけだった雨の守護者ブラバンダー・シュニッテンが何事かひらめいたようにくるりと振り返り、いつもの無表情の代わりに、流石のこのオレも察したぞ、と言いたげな表情でコヨーテを見て呟いた。
「人のすることにケチをつけるつもりはないが……いくらなんでもまずいんじゃないか、その年齢差は」
「やかましい!」
 コヨーテがすばやく拾いあげて投げつけたスリッパが宙を飛びブラバンダーの顔面に命中した。途端に室内が火のついたように騒がしくなる。

「賑やかだなあ。お祭りでもやってるのかい、この部屋は」
 別室で監視下に置かれていたはずの白蘭が現れて、ひょいと部屋の中を覗きこんだ。
「うわ、大の大人が取っ組み合いの喧嘩してる。ボンゴレファミリーの守護者ってのは皆こんな感じなのかい」
「白蘭。おまえどうやってあの部屋から抜けだしてきたのだ」
 騒ぎを逃れた九代目がいそいそと寄ってきて、
「また勝手に能力を使ったのか……まあいい。ところでおまえの能力は人の心を読めたりするのかね。たとえば誰が誰を好きだとか、そういうことも知れたりするのかい。ちょっと試しにそこにいるコヨーテの心を読み取ってくれんかね」
「それはちょっと無理な相談だなあ。僕の能力ではなんとも。僕に頼るより本人から聞き出したほうが早いと思うけど。それより、ボンゴレファミリーの守護者を二人も救ったんだからそろそろ僕のお願いも聞いてくれたっていいんじゃない。山本武とコヨーテ・ヌガー、どっちも助けてあげたでしょ」
「今回のおまえの働きには私も感謝している。だが、おまえに害がないと内外に証明できるまではおまえを自由にさせるわけにはいかんのだ。しばし待ちなさい。話はイタリアに戻ってからにしよう」
「つまんないなあ。これ以上タダ働きさせるつもりなら、とんでもないことしちゃうかも」
「文句があるなら未来の自分に言いなさい」
「ちぇっ、狸みたいな爺さんだ」
「白蘭! てめぇ、いま九代目の悪口を言ったか!」
「うわ、こっちに気づいた。あのコヨーテとかいう爺さん嫌いなんだよね。うるさいし、すぐ怒鳴るし。やっぱり失敗ってことにしてあのまま死なせておけばよかったな。でも、女の子が泣いてたからさ……ねえ、知ってる? 僕、女の子の涙には弱いんだ。特に、恋する女の子の涙には」
「おまえが言うと説得力に欠けるのお」
「白蘭! 九代目に気安く話しかけるな!」

 かつての敵同士の奇妙な押し問答は、騒ぎを聞きつけた九代目専属の医療チームと、白蘭に撹乱されて彼の逃走を許した監視チームの面々が大急ぎでやってくるまで続くのだった。

        おわり

No responses yet

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PHP Code Snippets Powered By : XYZScripts.com