少年時代のXANXUSと九代目、九代目の守護者たちとオッタビオの短編です。
クリスマスに九代目が急用でいなくなり不機嫌になってしまった少年XANXUSが、クリスマスツリーの飾りつけのためにクロッカンに肩車される話です。
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輝ける星
「まったくおっしゃるとおりでございます」
そう言って使用人は低く頭を垂れた。
「我々の準備不足が招いたことゆえコヨーテ様がお怒りになるのは当然のこと。しかし、新しいオーナメントが直前まで届かないとは思わず……いっそ、捨てるつもりでいた古い飾りをつけてしまおうかとも考えたのですが、皆ほかの用意にかかりきりで時間がとれずにおりまして……」
「もういい。よく分かった」
嵐の守護者コヨーテ・ヌガーはため息をついて、広間の中央に鎮座する巨大なクリスマスツリーを見上げた。
ツリーというより、ただのモミの木だ。飾りひとつ付いていない。封も開けられていない、真新しいオーナメントの詰まった箱がツリーの根元にぽつんと置いてあるだけだ。
「まさかクリスマス当日までこの有様とは思わなかったが——こうなったものは仕方がねえ。誰か暇な奴らに飾りつけをやらせりゃいいんだろう?」
「と、おっしゃいますと……」
コヨーテの機嫌を損ねないよう、おっかなびっくりといった様子で使用人が尋ねる。
「ちょうど適任の奴らがいる」
コヨーテはにやっとして振り返ると、後ろにいた若者たちを強い視線でねめつけた。
「おい、おまえら。他のやつらは料理やら何やらの支度で夜まで忙しいそうだ。今日一番の暇人であるおまえたちでこのツリーをなんとかしろ。いいか、オレたちが戻るまでに完璧にやっておくんだぞ。分かったな」
それからしばらくの後。
ガナッシュ、ニー、ブラバンダー、クロッカンの四人は、クリスマスツリーの周囲をぐるりと囲って大小さまざまなオーナメントをツリーに飾りつけていた。
「ドン・ボンゴレの守護者ともあろうものが、クリスマスに呑気にツリーの飾り付けをしているだなんて。昨日までの忙しさが嘘のようだなぁ」
飾りつけ用の白い綿を伸ばしたり丸めたりしながら、のんびりした口調でガナッシュが言う。
「オレたちこそ今日一番の暇人だってコヨーテは言ってたけどよ、そりゃあ、クリスマスを無事迎えられるように昨日まで死ぬ気で頑張ってたからだよなあ。早くワインを飲みながらゆっくりしたいぜ。白もいいけど今夜は赤だな。絶対に赤だ、たらふく飲んでやるぞ。なんたって昨日は一滴も飲んでないんだからな!」
「無駄口を叩いていないで手を動かせ、ガナッシュ」
怒ったようにニーが叫んだ。
「見ろ、ブラバンダーとクロッカンを。真面目にコツコツと作業して、君とはまるで大違いだ。九代目がお戻りになるまでに仕上げねばならないんだぞ。本当に分かっているのか」
「はいはいっと。分かってますよ。手も動かしゃいいんだろ?」
ガナッシュは軽く返事をすると、流行りのクリスマスソングを口ずさみながら、色とりどりのオーナメントをてきぱきと飾り付けていく。
四人の若者たちの手によって、リボンやきらきらするボール、雪だるまの人形、プレゼントボックスなどの飾りが吊り下げられると、裸ん坊だったツリーがまたたくまに華やかな雰囲気になった。どこかがらんとして寂しげだった広間がたちまちクリスマスのムードでいっぱいになる。
「これなら九代目が戻ってくるのには充分間に合いそうだな」
下から上までツリーを眺めて満足そうに微笑むと、広間の隅に向かってガナッシュが片手を振った。
「どうですか、坊っちゃん。ツリーがあるだけで随分クリスマスらしい雰囲気になったでしょう。坊っちゃんも一緒にやりませんか」
「……」
坊っちゃん、とよばれた少年は、視線をわずかに上げただけで返事をしようとはしなかった。
当主ティモッテオのひとり息子ザンザスである。
クリスマスのきらびやかな喧騒から離れて、オッタビオといっしょに壁際に立っている。むすっとしていかにも不機嫌そうなのは、いっしょに外出するはずだった九代目が急用で出ていってしまったからだ。
「ザンザス様」
隣に控えていたオッタビオが、そっと少年の肩に手を置いた。
「九代目がお戻りになるまで手持ちぶさたではつまらないでしょう。あちらでガナッシュたちと一緒にツリーの飾りつけをなさってはいかがですか」
「オレはやらない。あいつらに任せておけばいい」
「ザンザス様——」
「坊ちゃん、あんまりオッタビオを困らせちゃいけませんよ」
二人のやりとりを見ていたガナッシュがにこやかな表情で近づいてきた。
「九代目がお忙しいのはいつものこと。用事を済ませたらすぐ帰ってきてくださるんだから、オレたちと一緒にツリーの飾りつけでもしてお留守番していましょう」
「うるさい、黙れ。分かったふうな口をきくな」
ザンザスはぎろりとガナッシュを睨んだ。
「父さんが忙しいのはおまえら守護者どもがしっかりしていないからだ。一緒に外出する約束だったのに——ずっと前から約束していたのに、あっというまに今日が終わりそうじゃないか。全部おまえらのせいだ! こっちの気も知らずに呑気に鼻歌なんか歌いやがって! クリスマスは今日しかないんだぞ!」
「坊ちゃん、クリスマスは来年も再来年も何食わぬ顔でやってきますよ——いってえ!」
ザンザスにすねを蹴られたガナッシュがひっくり返って身悶えするのを見て、ニーがあきれたようにため息をついた。
「足を蹴られたぐらいでなんだ。情けない」
「くそっ、今のは当たりどころが悪かったんだ。折れてるんじゃないか?」
「君が考えもなしにザンザス様をからかうようなことをするからだ。九代目にどのような事情があったとしても、ザンザス様はまだそれを納得して受け入れられるような年齢ではないだろう」
はーっともう一度ため息をつく。
「ザンザス様がいることを分かっていて、コヨーテは我々に留守を任せたのだ。ならば、このような状況でもザンザス様に楽しんでいただけることを探すのもまた我々の役目。なんたって今年のクリスマスは一度きり——そうだろう、オッタビオ?」
「は——はい。そうですね。今年のクリスマスは一度きり……」
それまで黙って彼らのやりとりを見守っていたオッタビオは、急に声をかけられて少し驚いた様子だったが、不満げに頬をふくらませているザンザスを見て、ゆっくりと目を細めた。
「できることなら、このような特別な日には、寂しい思い出よりも楽しい思い出を増やしていただきたいと思います。ザンザス様が大人になり、いつか昔のことを思い返した時に、悲しみや苦しみの中にもたしかに輝くものがあったと思えるように……」
「楽しい思い出……」
ガナッシュがぼそりと呟く。
その視線が部屋の隅から隅まで動き、がちゃがちゃと残りのオーナメントを仕分けしているブラバンダーのところで止まった。
「それだ!」
ガナッシュがびしっとブラバンダーを指さした。
「ブラバンダー、おまえが持ってるそれ。その星のオーナメント。そりゃツリーのてっぺんに付けるやつだ。だがこの脚立じゃあ——高さが足りないな——ええと……」
きょろきょろと周囲を見回し、はっとした様子でツリーのほうへ近づいていく。
「クロッカン」
ガナッシュに呼ばれて、それまで黙々と作業していたクロッカン・ブッシュが顔をあげた。
ガナッシュがこそこそと何かを囁く。クロッカンは頷き、脚立と、不満そうなザンザス、物憂げな表情のオッタビオを順に見ると、歩み寄ってきてザンザスの前にずいと立ちはだかった。
「坊ちゃん」
ぎょっとして思わず身を引いたザンザスの前にしゃがみこみ、にこりと笑いかける。
「私といっしょに高いところへ登る勇気はおありですか?」
◇
クロッカンの言葉が何を示しているかはすぐに明らかになった。
クリスマスツリーでもっとも重要だとされる、ベツレヘムの星を模した五芒星のオーナメント。それをツリーのてっぺんに取り付ける役目を、ザンザスに任せるというのだ。
だが、ザンザスの身長では、脚立に乗ってもまだツリーのてっぺんまで届かない。そこで、ここにいる全員の中で一番背が高いクロッカンが、ザンザスを肩車して脚立を登るというわけだ。
「ザンザス様、本当に大丈夫なのですか?」
「だから、大丈夫だと言っているだろう」
クロッカンの肩車に乗せられたザンザスは、険しい顔つきでオッタビオを見下ろした。
「別にとんでもないことをしようとしているわけじゃない。ただ、あのツリーのてっぺんに星をつけるだけだ。それなのに、おまえがそうまで怖がっているとオレまで怖くなってくる。おまえは黙ってそこでじっとしてろ。余計な心配は無用だ」
言い聞かせるような口調のザンザスに、オッタビオは無理してそうしていると分かる表情で口をつぐんだ。それから意を決したようにザンザスを見上げた。
「分かりました。万が一にもザンザス様が落ちるようなことがあれば、私が受けとめてみせます」
「ああ。それでいい」
ザンザスは頷き、クロッカンの頭をじっと見下ろした。
大きな口をきいてみせたはいいが、内心では恐怖を感じている。大男のクロッカンの肩に乗るだけでもどきどきするのに、さらに脚立分の高さが加わるだなんて! 目を開けていたら、くらくらしてしまいそうだ。
ふーっと息を吐き、気を落ち着けてからクロッカンに指示を出す。
「いいぞ。登ってくれ」
クロッカンが脚立の一段目に足を乗せた。ザンザスは少しどきりとして、クロッカンの頭に置いた手に力をこめた。
「坊ちゃん。もし目を閉じていらっしゃるのであれば、あとで余計に怖くなりますので、開けておくのがよろしいかと」
「あ——ああ」
「大丈夫、私がしっかりと立っておりますので、安心しておつかまりください」
クロッカンはゆっくりと脚立を登っていき、ザンザスは高鳴る心音に聞こえないふりをしつつ前を見据えた。脚立の数段分を登るだけなのに、ずいぶんと長いあいだこの鼓動と戦っているような気がする。
「坊っちゃん、もうすぐてっぺんですよ」
「そうだな」
どきどきしながらザンザスは答え、小声でぼそっと言った。
「おまえだけには言うが、まだ少し怖い。正直なところ」
「それでいいのです」
クロッカンが頷いた。ザンザスの位置からクロッカンの表情は見えなかったが、クロッカンは笑っているようだった。
「今までやったことのないことをやろうとしているのですから、怖く感じるのは当然です。しかし、ガナッシュと私の提案を聞いたとき、坊っちゃんは迷いながらもやると決めました。そしてそれを実行に移したのです。勇気を持つことと、実際に勇気の要ることをするのでは、天と地ほどの差があります。怖くても前へと進むこと。坊っちゃんのしたことは、誰にでも出来ることではないのですよ」
「そうか……そうだといいな。父さんはこんなオレを誇りに思ってくれるだろうか?」
「もちろんですとも。……さあ、もうてっぺんまで来ましたよ」
いつのまにか脚立の一番高いところまで登りつめていた。気をとりなおして、ザンザスは前を見据えた。あれだけ大きく見えたツリーが、まるで自分とさして変わらない大きさであるような錯覚を覚える。
「まだ怖いですか?」
「いや」
クロッカンの問いかけにザンザスは小さく首を振った。
「思っていたよりは怖くない。おまえがオレを支えているのが分かっているからかもしれないが……もしも、オレが怖がったり暴れたりして、ここから無様に転げ落ちたらどうする?」
「ご心配なく。その時は下にいる仲間がきっと受けとめてくれますよ」
ザンザスはちらっと下を見た。守護者とオッタビオが一様にこちらを見上げている。いつのまにかやってきたメイドや従者たちまでもが、はらはらするような表情で見守っていた。
「さあ、坊ちゃん」
促されて、ザンザスはまっすぐに手を伸ばし、星のオーナメントをツリーのてっぺんに取り付けた。下からわっと歓声があがり、拍手が巻き起こった。ザンザスは目を丸くして皆の顔を見下ろした。
「なんだ、おおげさな——やめろ、おまえたち、降りにくくなるだろうが!」
クロッカンが笑いながら脚立を降りる。クロッカンの肩からすべり降りて床の上に降り立ったザンザスは、オッタビオや従者たちの手でもみくちゃにされて、頬を赤くしながら皆の手をふりはらおうとした。
そのとき、部屋の扉が開いて、外出先から戻ってきた九代目たちが部屋の中に入ってきた。
「父さん!」
ザンザスは思わず叫ぶと、皆の手をかきわけて走りだし、九代目の足元に飛びこんだ。
「待たせたな、ザンザス。すまなかった」
九代目はザンザスの脇に手を差し入れ、宙へ持ちあげて両腕でしっかりと抱えると、きらびやかに飾りつけられたツリーに歩みよった。ザンザスはてっぺんを指さして、誇らしげに言った。
「あの星、オレが付けたんだ」
「おまえが? あんな高いところにあるのに?」
「クロッカンに肩車をしてもらって、オレが付けた。オレが付けたんだ、父さん」
「おまえは勇気のある子だ」
九代目は目を細めると、その痩せた頬をザンザスの小さな額にすりつけた。
「おまえこそが私の星、輝ける光——」
「どうせなら、付けるところを父さんに見てもらえばよかった」
ザンザスは照れくさい気分になりつつも、父の顔を見上げてそうっと言った。
「こんなに早く帰ってくるだなんて思わなかった。クロッカンに言って、もう一回やり直させてもらおうかな」
「来年のクリスマスにまた見せておくれ」
残念がるザンザスに、九代目はやさしく言った。
「来年も、再来年も——その先もずっと。その頃にはおまえも大きくなって、自分ひとりでもツリーのてっぺんに届くようになっているかもしれない。おまえのそんな姿を見られるよう、私も元気でいなくてはな」
ガナッシュたちの報告を聞ききながら二人のやりとりを見ていたビスコンティとコヨーテが、お互いの顔を見て笑いあう。
「ザンザス様があの星を飾りつけたって? そりゃすごい」
「今夜の主役は坊ちゃんで決まりだな。去勢鶏の丸焼きの、一番でっかいのを坊ちゃんに譲ってやろう」
「さあ、いっしょに出かけよう、ザンザス」
赤い瞳をきらきらと輝かせるザンザスに、九代目が微笑みかけた。
「教会へ行ってお祈りをしよう。クリスマスプレゼントを交換して、ご馳走を食べるんだ。昨日は魚料理だったが今日は肉料理だ。ビステッカ、インヴォルティーニ、他にもたくさん。おまえの好きなものをうんとたくさん用意してあるからな——」
夢見るように頷いたザンザスの瞳に、ツリーの頭頂に掲げられた星の光が映りこむ。
新しい年の訪れを導くかのように燦然と光り輝くその星に、ザンザスは温かな胸の高鳴りを覚えた。これから何か新しいことが始まるという予感と、開かれた未来への確信に満たされて、少年の心は、その時たしかに希望に満ちていた。
◇
「なあ、これで飾りつければいいの? 埃っぽくてやなんだけど」
そう言って納屋からひっぱりだしてきた箱を足先で突っついているのはベルフェゴールである。
「ししっ、どれもちゃちで古臭いデザインのオーナメントばっかり。どうせならもっと荘厳なのが王子の好みなんだけど。マーモンにぴったりなのはこのガキくさい飾りかもしんねーけどなっ」
「ムム……一言余計だよ、ベル」
「そうねえ、ベルちゃんの言うとおりちょっと子どもっぽいかしらねえ」
ルッスーリアが頬に手をあてて息をつく。
「せっかくツリーがあるんだから飾りつけしようかとも思ったんだけど。オーナメントもあるっていうから期待したけど、昔、本部で使ってただけあって随分古いものみたい。いっそ新しいのに買い替えちゃおうかしら。……あら」
雪だるまの形をしたオーナメントをつまみあげてためつすがめつしていたルッスーリアの脇から、ベスターがのっそりと顔を出し、箱の中めがけて鼻先を突っこんだ。
そのままもぞもぞと動き——しばらくして顔をあげたベスターは、その牙のあいだに、ひときわ大きいきらきらする飾りを器用に挟みこんでいた。ルッスーリアが愉快な声をあげた。
「あらま、ベスターったらそれが気に入ったの?」
ベスターはまるで人間がするように頭を縦に振ると、後ろで見ていたザンザスにその飾りを渡そうとした。
「いらねぇ。ゴミをオレに押しつけるな」
「ボス、それはゴミじゃないわ。クリスマツリーの飾りよ。せっかくツリーもオーナメントもあるんだから飾ってみようと思ったの」
「クリスマスツリー? くだらねぇ。とっとと捨ててしまえ」
「だけどベスターはお気に召したようよ。それ、きっとボスにプレゼントしてるつもりなのよ」
ザンザスは舌打ちし、ベスターからのプレゼントを面倒そうに受けとった。
それは、大きな星型のオーナメントだった。
ザンザスがはっとしたように動きを止めて、手の中できらきらする星に見入った。その赤い瞳がつかのま昔を懐かしむようにやわらかく和んだかに見えたとき、その様子を眺めていたスクアーロが不思議そうに声をかけた。
「ボス、どうしたぁ?」
「……なんでもねぇ」
そっけなく言って、ザンザスはスクアーロにその飾りを投げ渡そうとした。
「そりゃツリーのてっぺんにある星だろぉ」
受け取らないぞ、といわんばかりにスクアーロが手をひっこめる。
「そういうのは、一番最後に大々的に飾りつけるもんだって聞いたぜぇ。どうせならボスさんが飾りつけてやれよ」
「ししっ、そうだよボス。ボスがツリーのてっぺんに取りつけてよ」
「ベル、貴様! ボスをわざわざ脚立に登らせるつもりか」
レヴィが怒ったように言って、ザンザスの前にひざまずいた。「ボスがお手を煩わせるまでもない、ここはこのオレが——」
「だってさ、ツリーの主役はその星で、オレたちの主役はボスじゃん?」
ベルフェゴールが笑った。
「だから、ツリーのてっぺんに星を飾るのはボスの役目であるべきなんだよ」
「ベルの言い分も分からないではないけど」
マーモンがちらっとザンザスを見る。
黙ったままじっと星のオーナメントを見つめていたザンザスが、ふと顔をあげた。
「いいだろう。やってやる」
「やった!」
あんぐりと口を開けているレヴィの横で、ベルが子どものように喜ぶ。ルッスーリアが手を叩いて皆をまとめた。
「そうと決まればさっそく飾りつけを始めましょう。ベルちゃんとマモちゃんは私といっしょに残りのオーナメントをとりにいくわよ。レヴィとスクは、雷撃隊のウーノ、ドゥーエ、トレも呼んで納屋から脚立を運んできてちょうだい。人数分持ってくるのよ!」
「ボス、安心してくれ。もしボスが落ちたら、オレが受けとめる!」
「ボスが落ちるわけねえだろうがぁ! いいからさっさと来い!」
スクアーロにしょっぴかれてずるずる引きずられていくレヴィ。ルッスーリア、マーモン、ベルフェゴールも揃っていなくなると、ザンザスとベスター、そして飾りつけられていないまっさらなモミの木がその場に残された。
「……ベスター。おまえ、オレの記憶を読んでいるんじゃないだろうな?」
ザンザスは思わず、口に出してそう問いかけていた。
はて、なんのことやら、とでもいうような表情を主人に向けて、ベスターは呑気にあくびをしている。
「……ふん」
ザンザスは手に握った星の飾りを眺めた。
——あの日のことなど、ついさっきまで忘れていたはずだったのに。小さかった自分、クロッカンの肩車の上から見た皆の顔、九代目の誇らしげな表情……思い返そうとすると、言いようのない感覚がこみあげてきて胸を刺す。
忘れていたのではない、ただ胸の奥にしまわれていただけだ、とザンザスは思った。あれから何年もの時が流れ、幼い頃の記憶が次第に色褪せても、あの日の思い出は記憶の片隅にひっそりと息づいている……この星と同様、小さくても確かな輝きを放ちながら。
ふと、ベスターがごろごろと喉を鳴らしながら頭をすりつけてきた。ザンザスは満足げに身を委ねてくるベスターにのたてがみに腕を回した。
「楽しいか、ベスター?」
そう問いかけると、白いライオンの口元が、人間のするようににこりと笑った。
「そうか。おまえが楽しいって言うんなら、クリスマスも悪くはねぇな——」
数奇な未来の記憶から生まれた、獣の形をした魂の片割れに向かって、ザンザスはわれ知らず微笑みかけた。
八年の眠りから目覚めて何度目かの冬——クリスマスはもうすぐそこまで近づいていた。
おわり
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