accanto a te(S・スクアーロ夢)

好きな人にお見合いの話がやってきて焦るスクアーロの話。

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「あれ……」
 暗い廊下にひとすじの明かりが差していた。
 ツナはそろそろと休憩室の中を覗きこんだ。革のソファに座りこんでいた女性がちょうど肘かけに手をついて立ちあがろうとしていたところだった。
「ハナコさん? どうしたんですか、こんな時間に」
「少し考えごとを。いま部屋へ戻ろうとしていたところです」
 ゆっくりとふり返り、ハナコは笑った。
「十代目はどうしてこちらへ? もうお眠りになったと思っていたのに」
「オレもちょっと考えごと。ていうか、歩きながら考えごとをしようとしたら暗くて怖くて戻れなくなったというか……はは。そんな感じ」
 ツナは照れ隠しにうつむきながら笑った。なんとか話をそらそうとして、ハナコの手に抱えられている冊子に目をとめる。
「それ、なんの本ですか?」
 その瞬間、ハナコの肩がかすかに震えたのをツナは見逃さなかった。聞いてはいけないことだったのだろうか?
 だが、一度口にしたことを取り消せるわけもない。どうするべきかとツナが慌てているうちに、ハナコはまたにこりと笑みをうかべて嬉しそうに冊子を差しだしてきた。
「ただの雑誌ですよ。ほら」
「ああ、本当だ……」
 いったい何が『本当』なのだろう? 自分でわけの分からない気持ちになりながら、ツナは雑誌を受けとりぱらぱらとページをめくった。
 特集らしい、ウエディングドレスを着こんだ美しい女たちの写真がひときわ輝いている。日本にいる想い人のウエディングドレス姿をぼんやりと夢想しながら、そういえばハナコさんに見合い話が来ていたんだったっけ、とツナはふいに思い出した。
「そういえば、ハナコさんにお見合いの話が来ているって聞きました。もう相手の方にはお会いしたんですよね。ザンザスがじきじきに持ってきた話らしいですけど」
 そう言ってツナはぎくりとした。
 一瞬、ハナコの顔が今にも泣きだしそうに歪んだからだ。
「ええ……ザンザス様がわたしを気遣ってくださっているんです。武器を握ることのできないわたしには、もうヴァリアーでの居場所はないも同然ですから」
 そう言うハナコの顔は悲しかった。自分から持ちだした話題にも関わらず、ツナは胸が痛むのを覚えた。
 数ヶ月前、彼女は任務で負傷した。怪我自体はさほど重くなかったものの、以前のように武器を握るためにはかなり長い時間が必要だった。
「でも……いいんですか? 見合いなんて……しかも、自分の意志でなく誰かに勝手に決められてしまうなんて」
 ためらいがちにツナは言った。
「オレがこんなこと言っていいかどうか分からないけど……もしもオレがハナコさんと同じ立場だったら逃げだしてしまうかも。ボスの持ってきた見合いなんて、その時点でほとんど結婚が決まったようなものだし。いくら組織のためとはいえ、好きでもないなんでもない相手と結婚するなんてなかなか決心できることじゃないですよ」
「最初はもちろん驚きました。まさかわたしにそんな話が来るなんて……でも、ザンザス様のためにも、組織のためにも、この話をお断りするつもりはありません。それに相手の男性はとてもお優しい方なんですよ。十代目も御存じかと思いますが、お相手の男性は同盟のロッソの御子息で、わたしにはぜいたくすぎるほどの方で──身に余る光栄だと──」
「……違う」
 ぽつりとツナは呟いた。
「違う。ハナコさんは、そんなこと思ってない」
 本当は言うべきではなかった。だが彼女の言葉にひそむ悲しみを感じると、どうしても言わずにいられなかった。
「無理しなくていいんだよ。本当は嫌なんでしょ? だって、ハナコさんが好きなのは──」
 ハナコはうつむいた。
 あとの言葉は、きっと言わなくても彼女自身がいちばん分かっている。
 スペルビ・スクアーロ。
 彼女の上司にあたるその人こそ、彼女の想い人なのだ。
 もしいま彼女が見合い話を断りたいと思っているなら、ツナはそれを手助けするつもりでいた。本来、ボンゴレのボスがヴァリアーの内情に直接的に関わることはない。それでもボスの権限さえあれば見合い話ぐらいはどうにでもできるだろうという自信があった。ザンザスには殴られてしまうかもしれないが、誰かが悲しむことになるよりかはよっぽどましだ。
「……十代目」
 ハナコが顔をあげた。
 ツナが見惚れるほど、その顔は優しかった。
「わたし、感謝してるんです。身寄りのなかったわたしを組織へ迎えてくださった九代目にも、厳しくも温かく私を育ててくださったザンザス様やスクアーロ隊長にも。そして十代目、もちろんあなたにも。この感謝の気持ちは表現してもしきれるものではありません。だから、いつもどうすればあなた方に恩返しができるのか考えてた。考え、考えて、そうして辿りついた答えが──これなんです」
「……ハナコさん」
「武器を握ることのできない者に居場所はない。足手まといになるくらいなら、せめて大好きな人たちのお役に立ちたい。だから、ザンザス様からお見合いのお話をいただいた時には正直ほっとしました。ああ、これで私も皆の役に立てるんだ、足手まといにならなくて済むんだって」
「そんなことないよ……」
 ツナは首をふった。
「足手まといだなんて誰も思ってない。思ってないんだよ、ハナコさん」
「……いいえ、十代目。わたしはもうずいぶんと多くの方に迷惑をかけてきました。特にスクアーロ隊長には。いつも足をひっぱって怒らせてばかりの部下がいなくなるんですから、隊長も清々するかもしれませんね。これで恩返しができるといいんですけど」
 にっこりと笑って、戸惑ったツナの顔を見つめる。
「このことについては明日の朝にザンザス様にお伝えするつもりです。ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、十代目、どうかよろしくお願いいたしますね」
 迷惑なんかじゃないよ……。そう言おうとしてまごついているあいだに、ハナコは背を向けるようにしてその場を立ち去ってしまった。ツナはため息をついてうつむいた。
 本当にこれでいいのだろうか? 彼女の決めたこととはいえ、彼女が本当に好きな人は別にいるのに。
 だが、これ以上ここで立ちすくんでいても自分にできることはない。ひとまず部屋へ戻ろうと暗い廊下を歩きはじめたとき、さっきハナコが去ったのとは別方向に見知った人物がいるのを見つけた。
 こちらには目もくれず、夜中だというのにひとりで腕を組んでうろうろしている。どう見ても怪しいとしかいえない行動にツナは眉をひそめ、おそるおそる尋ねた。
「……何やってるのさ、スクアーロ?」
 白い髪の男の肩がぎくりと動いた。
「沢田綱吉、てめぇか」
 ふり返ったスクアーロの表情はこわばっていた。気を取り直すように二、三度せきばらいをすると、近づいてきたツナを上から鋭く睨みつける。
「オレになんの用だぁ? ガキはさっさと寝やがれ」
「……ハナコさん、ザンザスが持ってきたお見合いの話を受けいれるみたいだよ。だから、ロッソのボスの息子さんと結婚するんだってさ」
「そうかぁ」
 ツナが予想していたよりもスクアーロは冷静だった。てっきり驚くか叫ぶかするものと思っていたが、ハナコの見合いの話は既にザンザスあたりから聞いているらしい。
「止めなくていいのかよ?」
「止める理由でもあんのか? いなくなってせいせいするぜぇ、あんな女」
 面倒くさそうに頭をかき、ツナが何も言い返さないとみるとさっさと背を向けた。
「話はそれだけかぁ? ったく、余計な手間とらせやがって。オレは自分の部屋に戻るぞぉ──」
「スクアーロ!」
 去っていこうとするスクアーロに、とっさにツナは叫んだ。
「ベルフェゴールに聞いたぞ。知ってるんだからな、スクアーロが、ハナコさんに渡すための指輪をもう二年も前に買ってるってこと!」
 スクアーロがぴたりと足を止めた。驚いたような表情でふり返る。
 青灰色の目が驚愕と焦りのためにぎらぎらと光っていた。まさかツナがそのことを知っているとは思ってもみなかったらしい。
「ハナコさんのことが好きなんだろ!? 部下としてじゃなく、女の人として! だったら言えばいいじゃないか! 好きって伝えればいいじゃないか! このいくじなし!」
「──無理だ!」
 思いがけない返事に、ツナはぎょっとした。「無理……!?」
「オレに文句をつけるつもりなら、そう言うてめぇこそさっさと身を固めろぉ! ボンゴレファミリーのボスともあろうものが女のひとりやふたり侍らせないでどういうつもりだぁ!? 日本に好きな女がいるんだろうが! さっさとガキこしらえて引退しちまえ、このクソ野郎!」
 言い返すというより、わめきちらしているに等しい言葉の数々に黙っていられるほどツナも大人ではない。負けじと拳をふりあげて叫んだ。
「それとこれとは話が別だろ! だいたいなんで無理なんだよ! 普段からヴァリアー最強の剣士だとか剣帝だとか名乗ってるくせに、好きな人に告白する勇気はないんだな!」
「あいつはオレの部下だぞ──幹部ともあろうものが仕事に私情をはさんでどうする──それこそほかのやつらに示しがつかねぇ、オレは作戦隊長だってのに──」
「ぶつぶつ言ってないで早くハナコさんのとこへ行け! このままじゃロッソの次期ボスにハナコさんをとられちゃうぞ!」
「うるせぇ!」
 義手の拳が壁に叩きつけられる。ツナはびくりと肩を震わせた。
「ハナコはオレの部下だ、あいつはもう決意を固めたんだ! 顔も性格もほとんど知らねぇ男のところへ嫁ぐことになるってのに、にこにこ気持ち悪いくらいに笑いながら『隊長のために』とかなんとかぬかしやがって──」
 言い聞かせるような声で呟いて、顔をあげて叫んだ。
「だったらこっちだってあいつを送りださないわけにはいかねぇ──オレひとりが勝手を通すわけにはいかねぇんだよ!」
 スクアーロの肩が、震えていた。腕も、その手も。
 射抜くような目で闇の奥を睨みつける。青灰色の瞳がぎらぎらと光った。
「おまえだったら言えるのかぁ? 自分の好きなやつが心を決めたのに、今更それを変えさせるようなことが? 言えるわけねえだろ──こんな状況で、あいつが──ハナコが好きだなんて、死んでも言えるかぁ!」
 背後で物の砕け散る音がした。
 はっとして顔をあげたスクアーロの後ろで、ハナコがぼうぜんと目を見開いていた。
 ツナとふり返ったスクアーロの顔を交互に見やり、ふと足元に視線を落として、そこで初めて花瓶を落として割ってしまったことに気がついたように慌ててしゃがみこむ。動揺しているのは目に見えて明らかだった。
「あ、花瓶が、ええと……」
「う゛お゛ぉい! 相変わらずとろくさいやつだぜぇ! だいたい、なんでこんな時間に花瓶の水なんて替えて」
「手伝うよ、ハナコさん」
 スクアーロのわきを通りすぎてツナはハナコのそばに寄った。
「い、いえ! 十代目はどうぞ、早くお休みになってください──すぐに片付けますから──いたっ!」
「大変だ、血が……」
「どけぇ!」
 スクアーロがもの凄い勢いでやってきて、傷口を確かめようとしていたツナを思いきり突き飛ばした。
 尻もちをつくツナには目もくれず、ハナコの手を無理やりつかみとる。
「だ、大丈夫です、これくらい」
「いいから見せろぉ」
 有無を言わさぬ調子で言ってハナコを押し黙らせると、傷口をじっと見つめ、血の流れ出る指先をいきなり口に含んだ。ハナコの顔がだんだん赤くなっていく。スクアーロはしばらくして唇を離し、血がほとんど止まりかけているのを確認すると、少し震えているハナコの手をふいにぎゅっと握りこんだ。
「……考えなおせぇ」
「え?」
「見合い」
 青灰色の瞳が心配そうに覗きこむ。
「おまえがいなくなるって考えたら、気が狂っちまいそうだぁ」
「わ……」
 ハナコはスクアーロを見返し、何度かためらうように目を伏せてから、ついに意を決したように口を開いた。
「わたしも、同じです……スクアーロ隊長」
「指輪はまだ受けとってねぇんだな」
 スクアーロはふところを探り、握りこんだ拳をハナコの前に差し出した。
 ゆっくりと開かれていった手の中に、きらりと光るものがあった。飾りのない、シンプルな銀色の指輪。
「本当はこんなムードもへったくれもねぇ場所じゃなく、雰囲気のいいところで渡せたらよかったんだろうけどよぉ」
 少し離れた場所で顔を赤くしているツナをちらと横目で見て、スクアーロが笑った。
「悪いな。今はこれで勘弁してくれぇ」
 ハナコの手をとり、すっと指を動かす。
 自分の左手の薬指にぴったりと入った指輪を、ハナコはじっと見つめた。確かめるように何度も角度を変える。曇りひとつない銀色がかすかな光を反射して、涙にぬれたハナコの目をさっと輝かせた。
「……変です」
 ハナコの顔がくしゃっとなった。泣き笑いの表情で、指輪をスクアーロに向ける。
「私たち、キスをしたこともないのに」
「どこへも行くな」
 どちらからともなく抱き合い、唇を重ねた。
 顔を真っ赤にさせながら、その横をこっそりと立ち去るツナ。見てはいけないものを見たような気分だったが、なんだか胸の奥が温かかった。
 いつかは自分も、あんなふうに障害を乗りこえて大切な人と一緒になるのだろうか? 一応マフィアのボスだし、スクアーロよりも自由がきかなかったりして……。
 今更のように自分の立場を呪い、ツナはため息をついた。

        ◇

「そういうわけだぁ。ロッソの子息に伝えておけぇ、てめぇのようなヒヨッコにはハナコはやらんとな」
「……カスどもが」
 ザンザスは書類を机に叩きつけた。思わずびくりとするハナコの前で、スクアーロは胸を張って堂々としている。
「ふん」
 ザンザスは赤い瞳でスクアーロとハナコを順々に睨みつけると、それで話は終わりとしたようでぷいとそっぽを向いてしまった。
「とっとと出ていけ。これ以上おまえたちの相手をしている暇はねぇ」
「わかったぜぇ。ありがとよ、ザンザス」
「本当に、これでよかったんでしょうか……」
 執務室を出たあとで、心配そうに扉をふり返るハナコ。
「同盟とはいえ、ご子息のことを断られてはロッソも快くないはず。ザンザス様にご迷惑をかけることになってしまうかもしれません」
「ボスはボスなりに喜んでんだから、いいんだよ。あいつに任せとけぇ」
 スクアーロはハナコの頭に手を置いた。
「もしロッソの奴らが何か言ってきたなら、オレが黙らせてやる。おまえを連れていこうとしたら、絶対に奪い返してみせる。絶対にだぁ」
「……はい。スクアーロ隊長」
「あのなぁ」
 真剣だったスクアーロの表情が一転、気の抜けたような顔になった。
「そのスクアーロ隊長っていう呼び方、いい加減やめにしねぇか? おまえはもうただの部下じゃねぇし、他人行儀になる必要はねぇ。ふたりでいる時ぐらいは普通にできるだろ」
「はい。スクアーロ」
「……なんか違う気がするぜぇ」
 いまいち納得がいかないようだったが、ハナコが笑っているのを見るとそれもどうでもよくなったらしい。今はもう恋人となった女の腕を引き寄せて、きつく抱きしめた。
「あのダメツナに感謝しなきゃなんねぇなあ。一応はあいつのおかげで、おまえが思い直してくれたようなもんなんだから」
「死んでも言わないって、そんなにわたしの決意が固いように見えたんですか?」
「実際そうだったろうが。あの時は本当にロッソのもとへ行っちまうと思ったぜぇ……」
 くすくす笑うハナコの頬に顔を寄せる。
「もうどこにも行かせねぇ。おまえが好きだぁ、ハナコ。ほかの誰よりも」
 束の間ふたりは見つめあい、ゆっくりと唇を近づけていった。
 その時──
「貴様ぁ! やるならボスの部屋からもっと離れたところでやれ! 貴様の陳腐な台詞を聞かされるボスの身にもなってみろ!」
 怒り心頭のレヴィが飛びこんできて、スクアーロは慌ててハナコを突き放した。ハナコもハナコで自分からスクアーロの腕を解き、壁の方を向いて顔を押さえながらぷるぷると震えている。
「あーあ。だめじゃないか、レヴィ。せっかくの金になる瞬間だったのに」
「なんだぁ、チューしないの? 勿体ない」
 物陰からぞろぞろと出てきた集団に、スクアーロは目をむいた。
 レヴィ、マーモン、ベルフェゴール、ルッスーリア。全員いる。
「てっ、てめぇら!? いつからそこにいたぁ!? ──み、見てやがったんだな!? 覗き見だな!? この野郎、いい度胸じゃねぇか! 今すぐかっさばいてやる!」
「いいからいいから、二人とももう一回くっついてよぉ。このルッスーリアがばっちり写真に収めてあ・げ・る・か・ら」
「うるせぇ! 消えろ!」
「『おまえが好きだぁ、ハナコ。ほかの誰よりも』……だって。くっさ」
「黙れぇええ!」
 剣をふりまわすスクアーロに、避ける幹部たち。
 ハナコはまだ顔をあげられない。
「だいたい、なんでてめーらがここにいるんだぁ! ──さてはあのダメツナ、幹部どもにちくりやがったなぁ!? どこだっ! どこにいやがる! 三枚におろしてやるぞぉ!」
 
 
「風邪ですか、十代目?」
「いや、そんなことはないと思うんだけど……」
 くしゃみをしたツナに、隣に座っている獄寺が心配そうに声をかける。
 不思議そうに鼻をすすりながら、ツナは座席の背にゆったりともたれかかった。
「もしかすると、誰かがオレの噂をしてるのかもね。悪い噂じゃなければいいんだけど」
「根も葉もない噂を流そうとするやつがいたらオレが吹っ飛ばしてやりますよ!」
「はは……ありがと」
 獄寺が渡してくれたティッシュをツナは笑いながら受け取った。
「そういえば、スクアーロの野郎は結局どうなったんですか? 確か、好きな女に見合いの話が来て、それでえらく苛立っていたとか聞きましたが」
「ああ、それね。スクアーロが止めたんだ。相手はハナコさんって人なんだけどね、その人に好きだって言って」
「あいつが……? 恋愛よりザンザスへの忠誠をとるようなやつだと思ってたのに」
「そう。意外なんだよね。それだけ彼女が大事なんだと思う」
 二人の姿を思い返して、ツナはゆっくりと目を細めた。
「それでオレ、スクアーロ以外の幹部に言ったんだ。スクアーロとハナコさんを祝福してあげてほしいって。たぶんふたりは結婚するだろうからって」
「今頃大騒ぎでしょうね、あいつら」
 楽しげというより、同情的な笑みをうかべる獄寺。
「だろうね。あーあ、オレも早く結婚したいなぁ。スクアーロとハナコさんを見てたら、仕事にかまけてばかりの自分が悲しくなってきたよ。結局学生時代はリボーンにしごかれてて遊ぶひまもほとんどなかったし。楽しくなかったわけじゃあないけど、青春を謳歌する世の学生たちとくらべてオレの青春ときたら」
「十代目が選んだ人なら祝福しますよ、オレ」
 どこか誇らしげに言う獄寺に、ツナはにっこりと笑い返した。
「ありがとう、獄寺くん。──さあ、日本に戻ったらまた仕事だ。ひととおり終わったら皆で一杯やろうよ。家族や友達も呼んで。門外顧問、九代目、もちろんあのヴァリアーもね。できるだけたくさんの人を呼んで楽しくやろう。もっとも、カタギの人間は抜きにしなきゃだけど……」
 フライトは特に異常なし。
 この調子ならあと五時間もすれば並盛に帰ることができるだろう。ツナはふっと息をついて姿勢を崩した。目を閉じ、寄り添いあう恋人たちの姿をまぶたの裏に思い描く。
(——二人とも、お幸せに)
 次に会う時には、きっともっと幸せそうな姿が見られるんだろうな。あの傲慢なスクアーロが、最愛の恋人を前に柄にもなく頬を染めて微笑んでいるところを想像して、ツナはひっそりと表情をほころばせるのだった。

     おわり
 
 TITLE:「accanto a te」
 DATE:2012.7.22

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